『正法眼蔵』等に見られる仏法要語の意味は、通常の仏教辞典等の解説では真の意味が通じ難いので、基本的には酒井老師の平易な言葉で記述した。
「サ」 「シ」−1 「シ」−2 「ス」 「セ」 「ソ」
- 坐
- 生命活動している身体の本来の在り方を確保する。
- 在家
- 自己満足追求。取り込み主義。利己主義。権威主義。家=自我。
- 最後身の菩薩
- 兜率(トソツ)天に最後身の菩薩として住む者。「一生所繋(補處)の菩薩」(今生を終り次生で直接仏となる)。
尽十方界真実を修行すること。只管打坐。- 栽松
- 仏道修行。松を植える。 例:栽松道人。
- 際断
- 完全。 *前後際断=それが全て。初中後際断=いつでも。全体。
- 錯錯
- 何とも無し。
- 錯認
- 謙虚な態度で修行(仏道の学び方)。将錯就錯(ショウシャクジュシャク)。
- 座元
- 第一座。首座(シュソ)。上座。長老。
- 做手脚(サシュキャク)
- 手脚の扱い。
- 坐禅
- 只管打坐。正身端坐。
自我を超えた尽十方界真実(大自然の生命活動の在り方)の実修実証(実践)。自己満足追求の放棄。大自然の無所得・無所悟(ただ生かされて生きている)の在り方の実践。- 殺
- 最も親密なこと(殺仏)。合殺(サイ)=そっくりそのまま。
- 作家(サッケ)
- 修行者。
- 殺仏
- 尽十方界真実そのもの。仏そのもの。
- 作仏
- 真実実践。証果。
- 作法
- 生活姿勢。生活態度。 *作法是宗旨(不染汚)=不染汚の生活姿勢。
- 三
- 正。正とは尽十方界真実の姿。
- 三界
- 自我世界。小乗仏教の欲界・色界・無色界の総称。
欲界は欲望に囚われた生物が住む境域。
色界は欲望は超越したが、物質的条件(色)に囚われた生物が住む境域。
無色界は欲望も物質的条件も超越し、精神的条件のみを有する生物が住む境域。
生物はこれらの境域を輪廻する。- 三界唯心
- 三界(心・仏・衆生。(『華厳経』))は唯心(「心」の姿)。宇宙の生命活動の表情。真実の表情。
*教学上の三界は「界内」(人間の自我世界)即ち欲界・色界・無色界のことで、「界外」は仏。- 三学
- 戒・定・慧(教学)。出家修行。
- 参学
- 本来の姿に徹底すること。
- 三帰戒
- 帰依三宝(仏法僧)。畢竟帰処。真実実践のため生活態度を転換。
- 懺悔
- 尽十方界真実の在り方に還る。生活態度の転換。只管打坐。自我の放棄。
- 三業
- 身・口・意(人間の行い)。人間生活全体。生活活動。
- 三際
- 過去現在未来(過現未)。人間の意欲活動より生じた概念。
- 三頭八臂
- 特殊なもの。
- 三千大千世界
- 尽十方界。古代インド人の世界観による全宇宙。
- 三時
- 釈尊滅後の時代を「正法・像法・末法」の三期に分けた時代区分。
平安時代以降、「正法千年、像法千年、末法一万年説」が一般的。
何れの時代も「教え」は残るが、正法は「証果」獲得可能、像法は「修行者」は存在するも証果獲得不可能、末法は修行者・証果共に不存在とされる。- 三時業
- 業(生活活動)の結果の現れ方の遅速による区別。
「順現法受」は結果がすぐそのまま現れる、
「順次生受」は次の生の時に結果が現れる、
「順後次受」は次の次の生に結果が現れる。- 三十七品菩提分法
- 元来小乗の段階的修行である四念住・四正勤・四神足・五根・五力・七等覚支・八正道支(『倶舎論』)のことであるが、真実の修行である限り大小乗の区別なし。発菩提心。尽十方界真実の実践。エゴイズムの放棄。
- 三聚(浄)戒
- 戒を三方面から説いたもので、尽十方界真実のこと。
十重禁戒の根源となる戒を纏めたもので、十重禁戒の一々の戒に三聚戒が全て包含されている。
摂律儀戒・摂善法戒・摂衆生戒。- 三性
- 善・悪・無記。人生。生活上の問題。
別に「唯識」の教義で諸法の在り方についての三種の性質である「遍計所執性・依他起性・円成実性」。- 三身
- 法身・応身・化身。尽十方界真実の展開。宇宙の生命活動。
- 三心
- 老心・喜心・大心。誓願の具体的な働き方。
老心は一切に思い遣る心・行き届く心。
喜心は老心を持って面倒を見ていく処に真の生き甲斐が生まれる。
大心は自我意識を超越して総てに比較分別せず、分別無分別を超える。- 山水経
- 尽十方界真実。山水とは単に人間の感覚対象としての山水ではなく、尽十方界真実としての在り方・姿。
- 三世
- 過去現在未来(過現未)。人間の意欲活動により生じた概念。
- 三世諸仏
- 永久の真実。
- 三草ニ木(喩)
- 世の中の自然の状態のこと。『法華経』(薬草喩品) 仏は平等に法を説くが、法を聞く者は機根に従って其々領解する。
- サン奪行市
- 主人公。
- 三毒
- 貪・瞋・痴(トンジンチ)。欲望の暴走。
- 三有・四恩
- 三有は「欲・色・無色」。四恩は「父母・国王・衆生・三宝」。
「上は四恩に報じ、下は三有を資け」とは利益一切衆生。- 三宝
- 仏宝・法宝・僧宝。尽十方界真実。仏法。
- 三昧
- 正受(生かされている)。等持(自然のリズム)。本来の姿。解脱。全部頂く。
- 三昧王三昧
- 坐禅。只管打坐。尽十方界真実人体。尽十方界真実の実践。
- 三密
- 三尼。身口意。身体の働き。大自然の働き。
- 三輪
- 身口意。身体・生命活動。
- 死
- 全てのものの本来の姿。全てのものは滅す。
- 師翁
- 師匠の師匠。
- 持戒
- 自我を超越して自己の本来の姿を保ち続けること。
- 始覚
- これから修行して悟りを開く地位。 *本覚
- しかしながら
- 『正法眼蔵』においては、一切、全て、全くの意。
- 此間
- ここ。平常底。
- 只管
- 無所得・無所悟。生命そのものの状態。生かされて生きている姿。
- 只管打坐
- 無所得・無所悟の坐禅。尽十方界真実の実修実証。黙照禅。
- 四食・食
- 生き方(識食・智食・触食・思食 『摂大乗論釈』)。自然の活動。
- 直下
- 足下。
- 直指人心
- 「直指が人心」。坐禅。生命そのものに直接する。尽十方界真実人体を常に明確に示している。直指人心で(例えば)歩いている。
- 直須万年
- ちょっとした事でも永遠の事実。
- 識神
- 喜怒哀楽に終始し、自己満足・自己陶酔のみしか考えない自我意識。
自我意識を自己そのものと思い込む利己的な自我意識。- 四句百非
- 論理(表現の方法)。
- 四見
- 一水四見。物の見方の違い。人間にとっての水が魚・餓鬼・天人では夫々宮殿楼閣・濃血・瑠璃と見る。
- 自己
- 本来の自己。尽十方界真実人体。大自然に生かされて生きている自我意識以前の身体。本来の面目。
- 四向四果
- 小乗の修行の階位。
預流[向・果]、一来[向・果]、不還[向・果]、阿羅漢[向・果]。
「向」は修行の目標、「果」は到達した境地。
預流は三界の思惑を断じて初めて聖者の流類に入る位。
一来は一回人天の間を往来して悟りに至る位。
不還は欲界には再び還らず色界に上って悟りにいたる位。
阿羅漢は今生の終りに悟り(涅槃)に至り再び三界には生まれない位。- 師資
- 師匠と弟子。
- 四事
- 衣服・飲食・臥具・医薬。生活用品。
- 獅子吼
- 釈迦の説法。尽十方界真実。
- 四衆
- 比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷。原始仏教教団構成員。
- 自受用三昧
- 身体全体大自然している。尽十方界真実人体。身体本来の在り方。
- 嗣書
- 尽十方界真実に徹する生き方を自覚した事に対する保証(証明)。
- 四生
- 胎生・卵生・湿生・化生。生まれ方。
- 自証三昧
- 自己を説いている。自証自悟即ち坐禅。尽十方界真実の実践が大自然本来の在り方。「自の証は三昧なり」。
大慧宗杲(看話禅)は「自」を「本来の自己」ではなく「自我意識」の自と取り違えた。- 四情慮
- 人間の生活活動。自我活動。心・念・情・識。
心(ココロ)は精神活動で、好嫌に始まり、その区別の契機(思慮)をなすものが情。その間にあって行動を発動させるものが念。念の実際の活動は意欲的意志的に思考すること。思考から行動が発動する。思考の発想の契機は識。以上人間の行動は此の四要素の思慮を起点とする。思慮は何時も知見を作り上げる。- 自性
- もの・ことが常に同一性と固有性とを保ち続け、それ自身で存在すると言う本体、若しくは独立し孤立している実体を言う。「部派仏教」の「説一切有部」等の説。
大乗仏教、特に竜樹は相依に基づく縁起説によって、実体と実体的な考えを根底から覆し、自性の否定である「無自性」を鮮明にし、それを「空」に結びつけた。- 自性清浄
- 『般若経』は「清浄」を「空」の意に解し、法が縁起・無自性・空であることを示すと解釈。
- 自性霊妙
- 人間の恣意を超えた尽十方界真実の在り方。生命活動の絶対性。
- 時節
- 正当恁麼。「〜ということ」。ものの本当の姿。
- 四禅
- 小乗の初歩の禅定で、欲界の欲や迷いを捨て色界に生ずる四段階の禅定。
なお「四果」は四禅より上の四段階の階位である。- 事存函蓋合
- 事存して函蓋合す。師弟の呼吸が合う。
- 四大
- 地(堅性)・水(湿性)・火(煖性)・風(動性)の四要素。性質が相反する働き(和合・離散)。:部派仏教の阿毘達磨の説
- 四大五蘊
- 四大が身心(因縁和合)として活動する時に五蘊=名色(色受想行識。色は肉体の活動・現実の姿、受想行識(名)は活動の様式)という形態をとる。
尽十方界真実の様相。- 七仏通誡偈
- 諸悪莫作、衆善奉行、自浄其意、是諸仏教。
人間の意欲的行動を本来自然の在り方に戻す自性清浄の修行が仏法の原則。- 七仏の眼睛
- 大自然の生命本来の姿。尽十方界真実の内容。
- 死中得活
- 本来の姿(死)を知って活き活きと生きる(生=仮の姿)。
- 悉有
- 実際に生きている事実。総てのものが形を努力している事実。尽十方界真実。
- 十劫樹
- 大自然の無限の姿。本当の姿。三昧。
- 実相
- 尽十方界真実。
- 漆桶(シッツウ)
- 従来の固定観念。
- 七通八達
- 自由自在。
- 十方
- 東西南北・四維・上下。仏国土。仏法。尽十方界真実。宇宙。
- 四土
- 現実世界。
- 四念住(処)
- 身、受、心、法の元来小乗の修行も、エゴイズムの放棄、真実実践と捉え直すことにより大乗の修行となる。
- 緇(シ)白
- 緇(出家)、白(在家)。緇は黒・墨染めの衣、白は白衣。
- 且く道え
- 以上述べてきたことを言い換えると。他の観点から云ってみよう。
- 慈悲心
- 大自然の恵み。心の働きそのもの。自我以前の在り方。身心一如。
- 嗣法
- 尽十方界真実に徹する事。只管打坐を疑いなく実践できる事。
- 四無量心
- 慈・悲・喜・捨。自己満足の棚上げ。
- 捨
- 尽十方界真実を修行する。解脱。囚われない。選ばない。
- 邪
- 独断。自我の暴走。自己満足追求。
- 著
- 〜せよ(命令)。助字。
- 著衣喫飯
- 日常の行持。地味な修行。食べたり着たり。
- 寂静・寂滅
- 大自然の真実の様相(姿)。本来のあり方。
- 這箇(シャコ)
- 現在。現実。尽十方界真実。
- 裟婆
- 人生。自我生活。
- 沙門
- 出家。仏道修行者。自然している。生命力。尽十方界真実。出世。
- 舎利
- 身体の在り方。骨。
- 這裏
- 此処。這裏是什麼處在(此こそは真実と云うものなし)。全部真実。
- 受
- 生かされている事実。感覚。
- 思惟
- 身体全体の生理現象。
- 宗
- 本来の姿。全ての根源。最も重要なこと。尽十方界真実。
- 十悪
- 殺生・偸盗・淫慾・悪口・両舌・綺語・妄語・貪・瞋・痴。(身三、口四、意三)
- 十号
- 仏の十種の徳号。
如来・応供(福徳智慧を具え、人間・天上界の者より供養を受ける意)
正遍知(等正覚。あらゆる智慧を持ち一切万有を周知する意)
明行足(過去現在未来の事を周知し、本願と修行を具足する意)
善逝(無量の智慧で煩悩を断滅して俗界を離脱する意)
世間解(人間界及び自然界のことをよく了解する意)
無上士(衆生の中で最上者の意)
調御丈夫(衆生の身心を調和し、諸悪行を制伏する者の意)
天人師(人間や天上の者を教導する者の意)
仏世尊(仏は知者・覚者の意。世尊は世に尊重せらるの意)。
その他善導とも云う。
因みに仏の相好(顔形)は、三十二相八十種好ある。- シュウ子(シ)
- 舎利弗(釈迦の弟子で智慧第一)。
- 住持三宝
- 三宝を修行者自身が安住護持することで、三宝の実現を説いたもの。
修行者は一体三宝を自覚し尽十方界真実を実践する。それが現前三宝であり、その現前三宝で此身が尽十方界真実人体そのものになるのが住持三宝である。- 十重禁戒
- 尽十方界真実を信じ、現実をそっくりそのまま頂く事であるが、その受取り方・修行の仕方に十種有る。「十重」という意味は一の戒が同時に十戒を含んでいるということであり、一の戒が完全に行われる時、他の戒も全部完全に行われる。
不殺生戒・不偸盗戒・不淫欲戒・不妄語戒・不コ酒戒・不説過戒・不自讃毀他戒・不慳法財戒・不瞋恚戒・不謗(不癡謗)三宝戒。- 習禅
- 一の心境(目的)を目指して修練する禅。公案禅。
- 衆善奉行
- 成仏。諸悪莫作。諸法実相。衆善は奉行なり。
- 十二時
- 一日。人間生活。
- 十二入・処
- 六根、六境。自我の世界の働き(感覚)。尽十方界真実人体の働き(般若波羅蜜)。
- 十八界
- 六根(眼耳鼻舌身意)、六境(色声香味触法)、六識(眼耳鼻舌身意)。生活活動。自我活動。
- 臭皮袋
- 人間。
- 周遍法界
- 尽十方界。無限にあらゆるものが存在、生じている。全てが仏。
- 住法位・住位
- 尽十方界真実存在。大自然に生かされ(存在させられ)ている。
- 衆法合成
- あらゆる事実と働き。
- 受戒
- 尽十方界真実に気づいてこれを信じ実践する。坐禅。
- 授記
- 本来成仏。尽十方界真実を頂いていること。大自然に生かされている。仏に成仏を保証される事。
常用仏法要語(シ2〜ソ)