『鷲』掲載(改訂)句(1978〜1985年)
蛍火を手に掴み消し闇を行く望の夜を団地の窓のみな閉ざす
吹雪来てホームの人等列乱す
盆栽の白梅が咲く喪の家に
春の星幼な児明日も畦走らん
幼な児の野遊びの輪を脱け走る
青空に矢車光る路地の葬
春暁に睡る
吾子 の手弄ぶ炎天の道子供靴放置さる
溝川に水音聞こゆ雷雨止み
日も月も円く夕べに蝉時雨
時雨過ぎ樹々の幹々濡れずあり
初蛙見るも
屍 の姿にて虫
数多 懸かる蜘蛛居ぬ蜘蛛の囲に児の服に貝殻が鳴る春の浜
嵐なか鳩松の木に巣篭れる
下山者に農夫が山の寒さ訊く
蝉声 が溢るる大樹そよぎなし木枯らしに子の
問 絶へて眠り落つ花冷えの夜更け野良犬戯れおりて
主 死す軒端を越えて竹伸びて燕の巣米寿手形を張る家に
青草の繁る梅雨のスラム街
透かし戸のスナック無人梅雨の夜
見知る唖者
白髪 となれり夏祭盆踊り老婆の前後
間 が空く猫が鳴く寒月照らす叢に
春の闇
秣 の匂う通い路海を見に来たる海辺に初雲雀
部落 過ぎて部落 なし渓 の水澄める盆の月牛舎に人の影見ゆる
枯蟷螂燈を求め来て燈を消さる
浮浪者が咳込む他者の背を摩る
雪を被て見馴れし山の近く見ゆ
田や川が潰されてあり初燕
糸蜻蛉孵りたる庭離れざる
寒の夜に子供立ち読み店頭で
泥避けて歩く頭上を初燕
花の夜に今年も地虫鳴き初む
立ち退きを請う
家 の軒に燕の巣炎天に枝葉伐られてポプラ立つ
大
竈馬 一匹土間に歳越せり薄雪の朝小藪に初音聞く
祝宴のテント吹き抜く青嵐
弔いの家に燕の囀れる