無発表時代
昭和48年 頭をもたげ続けて蛇の逃ぐるなり 今日たちし巨き峰雲今日亡ぶ 昭和49年 海よりも刈田の天に星集まる 昭和50年 奈良だけでよし火遊びの山焼は 凧暴れさせ鎮もらせ風すぎゆく 天にある隠し風にて凧あがる 昭和51年 藁撒かれ冬の遊び田いたはらる 浮浪者の焚火浮浪者寄って来る 啓蟄を鳶は天にて窺へる 二の腕の刺青が見ゆ金魚売 燕土咥ふ大工は釘含み 苗代を縄もて囲む神代より 早起きの燕に土間の戸を開ける 梅雨入りに大峯行者出で立てり 万緑の先ず田植よりはじまれり 万緑に石も田螺も苔はえて 七夕の宵弱雷が空駈くる 七夕の夜空に星は数えるほど 長袖を着て炎天の集金婦 帰燕らに台風海を来つつあり 善峰寺 虫の声阿弥陀如来に夜伽して 昭和52年 歳晩の分秒が過ぐ理髪の椅子 枯園にまひるを眠る浮浪者等