(『鷲』(尾崎純雄主宰)掲載句)
鷲 第一号(昭和53年1月) 群鴨の流れに浮きて流されず探梅行鴉が啼けば啼き真似して(淡路・国清禅寺句碑)
闘鶏の声をあげずに勝負つく
独りごと言ひ田植機の向き変える
通夜をする母子に蛍捕り呉れし
水馬追ひ口つけて清水のむ
火を点けて貰ひて撰ぶ走馬燈
雀ゐぬときも鳴子は風に鳴る
昼暗き藪の中にも曼珠沙華
工場の灯明りに稲架け終る
鷲 第二号(昭和53年7月) 睨み鯛睨みて今年始まれり
風邪に臥す我が枕辺に綿埃
着ぶくれて我鏡中に老ひて見ゆ
落葉ばかり山の社の塵箱は
老幹も若枝も梅は花つけて
梅を見る桟敷梅の枝背に触れて
梅の村梅一枝挿す忠霊碑
初蝶に今年は墓に来て会へり
蕗の薹長けて藁屋に人棲まず
桜いま満開杭を打つ勿れ
夏蜜柑一つ手提に持ち歩く
ひとり居にはためく音す鯉幟
雨蛙真夜中に鳴き雨を呼ぶ
鷲 第三号(昭和54年1月) 恋終る雌の蜥蜴の尻尾切れ
蚋追へず牛は柱に顔こする
秋の蝶低く飛びつつついて来る
今夜よりこのこほろぎは幾夜鳴く
街道を地車帰り来る灯を点けて
地車の灯が稲田照らして戻り来る
風呂貰ふ後の月見に招かれて
雀ゐぬ田にも響ける威し銃
乗り継ぎの駅に降りれば望の月
鉢植えの銀杏は鉢に落葉して
藁塚を離れ藁屑払ひ合う
鷲 第四号(昭和54年7月) 除夜の鐘聞こえをちこち犬吠ゆる
注連飾る石も拝みて初詣
走り根を跨ぐ春着の裾からげ
湯殿にも追儺の豆を撒きに来る
掌に載るだけ拾う落椿
蝋燭の立消えてゐる彼岸墓地
孕み猫悠々線路横切りをる
キャラメルを一粒口に花を見る
幼な児の食べて余さず木の芽和
地蟲鳴く雨戸閉めても聞こえゐて
とく起きて幟揚ぐ夫勤めなし
磯嘆き海女の嘆きと思ひ聞く
海女潜り桶が波間に漂へり
鷲 第五号(昭和55年1月) 滝行はせず幾度も滝拝む
滝行場注連縄の垂木綿
( の裂( 青田中墓地に松一本の蔭
捕え来し沢蟹苔を与へ飼ふ
盆の物泳げる海に漂へる
暗渠より出で来て盆の物流る
蟹入りし土管覗けば蟹がゐる
水際まで来てどの蟻も引き返す
草の花咲きてゲレンデ花野なす
村の家風呂焚く柴にイトドゐて
石地蔵御手に木の実飴が載る
眼つむれば潮騒の間にちちろ鳴く
落葉して裏参道も石畳