鷲 第二十六号(平成2年7月) 早々と冬至日暮の雨戸閉むカレンダー酒屋酒粕添えて呉れ
今年亡しこの膝掛を呉し老女
初蝶や今立替へし墓の供華に
人を見ず村ひっそりと花の昼
訪ひし家二軒とも留守花の昼
芹摘んで帰る吉野に花を観て
揚雲雀汝にストレスなど無きや
鯉のぼり立つ山腹の一軒家
キャラメルを口に巡れり薔薇の園
鷲 第二十七号(平成3年1月) 沙羅の花観る会一弦琴奏で
御田植牛は代掻きためらへり
雲の峰知らざる町もなつかしく
盆踊見むと一里を歩き来し
黙々と男青田に毒を撒く
こほろぎが庭で鳴く夜や恙なし
歌声の洩れゐる酒場ちちろ鳴く
老人が釣る秋晴の船着場
宅急便届く梨柿栗も詰め
故郷の茄栗食べて老夫婦
秋没日つなぎたる手の冷えてをり
草の花摘むにしゃがみて老姉妹
村の猫何処へ行くや刈田横切る
野の道を猫歩き来る小春日和
鐘楼に柿吊し干す山の寺
榧の実を干しある寺に普茶料理
鷲 第二十八号(平成3年7月) 暖冬の草よ食べたき緑色
裏庭へ猫が抜けゆく花八つ手
老夫婦野道辿りて初詣
声かくも見向かず寒き檻の猿
遠山に日当り低き山眠る
早咲の桜活けしに寒戻る
冴へ返る姉を訪はむと思ふ日に
橋の上早春の風頬を刺す
春の蚊の血を吸ひをれり侮れず
温泉
( の宿の仲居が焼けし甘藷呉れる水底の菱芽を出せり水中へ
オホーツクの海灰色や春なれど
泰山木咲くを息子と仰ぎ見る
勢がよし真新
( の鯉幟鷲 第二十九号(平成4年1月) 睡蓮や集
( って来る鯉みな痩せて紫陽花の小径妻乗す車椅子
梅雨降る鯉も金魚も餌をあまし
釣道具細々
( 出して梅雨籠玉葱が届く薊の花添へて
抱きしめし児や瓜食べし匂ひせり
野の墓に人参りあり草の花
玄関の柱で鳴けり法師蝉
盆過ぎてまたひっそりと老夫婦
こほろぎやかはたれの灯が点りゐる
キッチンに誰か起きをりちちろ鳴く
間に合はず電車い出でゆく秋の暮れ
秋の暮れ京の山裾灯が点る
掌に丸めて惜しき木の葉髪
鉦叩き霜月の夜の更けゐるに
丹精の菊を残して入院す
老ひとり広き家守る木枯に
菜園に小菊一畝咲かせゐる
鷲 第三十号(平成4年7月) 小鳥らは嬉々歳晩の林泉に
鋭き声上ぐ枯園の檻の鷲
公園に葉牡丹植えて年迎ふ
たこ焼きを売る短日の小公園
立てかけて竹馬を売る梅茶店
子供等は縄飛びしをり梅林に
人の死を聞きし一と日よ冴へ返る
着ぶくれて老師小犬を愛撫せり
陽がぬくく人仰臥せり梅桟敷
登り来る人なし午後の梅林に
紙燃やす春夕暮れの風さむし
雛流し風寒く姉庇ひ見る
れんげ田がまだ残りをり故郷に
花の昼絵とき説法坐して聞く
三三五五人喪に集ふ花の昼
子雀の声は鋭し庭若葉
汗ばみて八十路の姉が喪服着る
葬り来て生者等冷えしビール飲む